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10周年の節目に|きりばやしひろき

きりばやしひろき

きりばやしひろき

1971年生まれ、山梨県出身。高校卒業後プロとしての活動をスタート。1994年『叫ぶ詩人の会』でメジャーデビュー。ドラマー、ギタリスト、キーボーディスト、作曲家、編曲家など音楽業の他、ラジオパーソナリティをはじめMCや文筆など多方面で活躍している。著書多数。社会の楽器演奏者人口を増やすことを目的として様々な活動に日々取り組んでおり、2011年「Quiree株式会社」を設立。代表取締役。 http://dashman.org/

楽器挫折者救済合宿・主宰 きりばやしひろきからのメッセージ

「すべての人に音楽を」

つい数年前から、某大手出版社役員、某大手旅行代理店社員、プロカメラマン…といったいわゆる音楽業界のド真ん中ではないフィールドにいる面々で構成された“社会人バンド”に混じり、できる範囲ではありますが活動を共にさせて頂いております。

ご存知の通り、私の生業は“音楽”であり、作曲編曲、原盤制作(レコーディング)、公演、紙媒体電波媒体などの各メディア露出、連載等を含む音楽関連書籍執筆…などに日々を費やしながら同時に自社が運営管理する"楽器挫折者救済合宿"やそれに付随する講演活動などを行なっていますが、たびたび申し上げている通りMusic Loversを増やす活動にプライオリティを置いている事情で、とくにここ数年(一部のサポート公演等を除き)プレイヤーとしてステージに立つ機会をなるべく積極的に設けぬようスケジューリングさせていただいてます。

そんな事情で、とくに同業者からは“決して暇ではないのに社会人バンドに時間を割いていること”について違和感を持たれたりしますが、そのたびにザックリと“社会人バンドを通じて得ようとしている情報が山のようにあるから”というふうに説明するようにしています。

社会人の皆さんにとって、様々ある趣味の中でも“バンド”というのは長く続けるのには結構大変なもののようで、どうやらそれは“社会人バンド”というスタンスだからこその諸事情にあるようです。

たとえば、百戦錬磨のプロミュージシャン相手ならば何の負荷もなく効率よくすべてのアクションを消化できるのですが、一方の社会人バンドはというと、突然の残業やら出張やら歓送迎会やら体調不良やら何やら…といった、プロの現場では到底あり得ない理由で貴重なリハーサルに簡単に欠員が出たり、ようやく全員が揃ったら揃ったでブランクゆえに前回までの積み重ねをすっかり忘れて振り出しに戻ってしまっていたり…といったことが普通にあります。

そんな時、仮にプロの現場ならばクライアントがガツンと雷を落っことして次の日には別のミュージシャンがその穴を埋めているか、あるいはたとえ欠員が出てリハーサルがきちんと予定通りに消化できなかったとしてもそれを補うスキルがそれぞれにあるため最悪の状況でも何とかしてしまえるのですが、そういう訳にいかないのが一般の社会人バンドなので、もしも私自身のスタンスでプロの現場の尺度を持ち込んだら社会人バンドなんて三日も続かないでしょう。

しかしながら突然の残業も出張も歓送迎会も体調不良も誰が悪いわけではないので…つまり彼らはプロミュージシャンではなく、社会人として人生を豊かにするための趣味として精一杯、音楽を楽しんでいるだけなので…これもまた、それぞれの人生の趣味…つまり長く楽しく続けることを目標とするすべての社会人や学生らにとっては非常に厄介な部分のひとつだと私は考えています。

従来の発想でいえばこのたぐいの問題に首を突っ込む必要は基本的に我々のような立場にはないのですが、あえて社会人バンドの世界へ飛び込んでみると、決して放っておくわけにはいかない問題であることに気付きます。

「音楽に限らず、趣味というのはその当事者がそれぞれに何とかするだろうし、むしろ他者に頼らずに自分で何とかしなきゃいけないんじゃないのか?」なんて思う同業者も大勢いるでしょうが、しかし我々のような音楽を生業にしている立場の人間が“社会人バンド”というものを音楽シーンとは別のフィールドにあるものだ…といった無責任なところに居てはいけない時代が今まさにここにあります。

昨今の音楽マーケットは実は衰退してきているのではなく、音楽そのものの役割が以前とは変わってきているのだと私は考えています。

たとえばライブハウスやリハーサルスタジオは、ひと昔前はレコード会社やプロダクションのような大口の顧客に支えられていた時代があったものの、現在は概ね社会人バンドが支えている訳です。

「いや、ライブハウスのスケジュールを見ればプロがいっぱい出演しているじゃないか」と言う人もいるかも知れませんが、一見それ一本を生業にしていると見える素晴しい表現力を持ったバンドたちも結局、CDや配信などの音楽ソフトが経済を動かさない時代に突入したことで音楽以外の食い扶持にしがみつきながら何とか音楽を続けていたりするような実情があり、ふたを開けてみればそれが昨今のアンダーグラウンドシーンを支える多数派です。

つまり、彼らも事実上“社会人バンド”であり、ライブハウスもリハーサルスタジオも基本的に“社会人バンド”に支えられている訳です。

そんな折、とくに近年、社会人バンドという体験を通じ、一部のライブハウスやスタジオ、あるいは楽器店なども含めた音楽を扱う場に対して、個人的に大変心を痛めている事態があります。

プロとして利用させていただいている時にはまるで気付かなかいのですが、改めて社会人バンドの中に飛び込んだ時、目を疑うような酷い対応を目の当たりにすることがたびたびあります。

長くなるので具体例は割愛しますが、それらは彼ら関係者の意識ひとつですぐに改善できるものばかりで、残念ながら「プロに対して手は抜かないが、それ以外はとりあえず売り上がればOK」といったたぐいの差別と捕えざるを得ない状況であり、実際にバンド自身だけでなくそのライブにわざわざ足を運んでくれたほとんどのお客さんたちの気分をも害することになってしまった例も多々あるため見過ごす訳にもいかず、何より世の中の無数の社会人バンドの皆さんを守るため、言うべきことを言わせていただきました。

とくに社会人バンドにとって、あるいはそれを観に足を運ぶ一般の人々にとって、ライブという機会がどれほど大きなものであるかを、現場サイドの人間は決して忘れてはなりません。

その一日のために何ヶ月も何年もコツコツと準備してきた彼らにとって、その日が人生の中でもとくに際立った最高の一日のひとつになり得なければ、彼らの多くは趣味として音楽を長く続けていくことができないでしょう。

この件に限らず音楽従事者はもっと謙虚でなくてはならないと常々思っていますが、少なくともエンターテイメントというハッピーなものに従事する立場の人間がキャリアやスタンスの違いでMusic Loversを差別するなどという異常事態は、プレイヤーたちのためにも、彼らを観に来るお客さんたちのためにも、そして何より現場サイドにいる従事者自身のためにも、絶対に起こさないで欲しいと願っていますし、一日一日代わる代わるやって来る無数のMusic Loversを、絶望させるのではなく、徹底的に楽しませてあげて欲しいのです。

この場を借りて、音楽に従事する業界すべての方々、上記くれぐれも宜しくお願いいたします。

…そんなこんなで引き続き、実際の生々しい“社会人バンド”という体験を通じて、一般の方々が趣味で音楽を続けてゆくことの難しさを思い知りながら、それらの苦悩の中から最終的に社会人が一生を通じて音楽を楽しみ続けていける理想のスタンスをひとつの指針として見つけ出すという試みを、個人的には今後も続けていく覚悟でいます。

Music Loversを増やそうというアクションの一環として社会人バンドにある程度の時間を費やすことは良くも悪くも想定以上の意義がありますが、もちろんホームの河口湖合宿も可能な限り開催してゆきますし、それ以外にもまだ告知に至らないアクションが続々と控えているので、今年は更にMusic loversの裾野を広げてゆくその元年という位置づけになるのではないかなと思います。

“0を1に変えること”…という信念を軸に、おかげさまで様々な新しい枝々が世界に伸び始めています。

また、今年からはおそらく音楽業界の垣根を越え、どのような業種に対しても接点が生じてくるのではないかという予感がしています。

2016年、これから出逢う同志の方々、そして引き続きこれから出逢う沢山の楽器未経験者の方々、とにかく今年もいろいろと楽しみにしております。

2016年 1月 1日 きりばやしひろき

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