TOP > about "Q-sai" > 主宰からのメッセージ > 13th
きりばやしひろき
1971年生まれ、山梨県出身。高校卒業後プロとしての活動をスタート。1994年『叫ぶ詩人の会』でメジャーデビュー。ドラマー、ギタリスト、キーボーディスト、作曲家、編曲家など音楽業の他、ラジオパーソナリティをはじめMCや文筆など多方面で活躍している。著書多数。社会の楽器演奏者人口を増やすことを目的として様々な活動に日々取り組んでおり、2011年「Quiree株式会社」を設立。代表取締役。 http://dashman.org/2008年秋、利用宿泊施設のご親族にあたる方が、長年の修行の末、地元名物「吉田うどん」の店をオープンさせました。その店は田園と森の狭間にポツンと建ち、国道やバス通りなどからも離れて目立たない非常にアクセスの厳しい立地であるにも関わらず、開店早々その味へのこだわりがお客さんの心を掴み、あっという間に行列の絶えない人気店となりました。その人気は8年が過ぎた今もなお変わらず続いております。この件でオフィスに問い合わせがくると面倒なので先回りしてお店の情報を載せておきますね↓。
「くらよし」 http://www.udon-kurayoshi.com
そんな縁もあって「せっかくなので地元名物の味を楽しんで練習の合間の気分転換にでもなれば…」といった意図で我が合宿は2008年11月、少なくとも我々運営サイドにとっては随分と思い切ったタイムテーブル変更に踏み切りました。これにより、全国各地から来られる参加者たちにとっては現地の風情を味わうひとつのアトラクションとして、また、なか日の息抜きとして、それぞれに楽しんで頂ける機会を新たに得ることとなりました。
ちなみにそれまでは宿泊施設の大広間でササッと簡単な昼食を済ませていたので30分もあれば各自練習に戻ることができたのですが、タイムテーブル変更以降、送迎車配車や戸締まりなどで5~10分、そこから往復およそ15分ほどの距離を移動、そして常に行列の絶えないこの人気店で待ち時間を含めおよそ40~50分ほどの昼食…という、合宿の進行上決して軽くはない新たな時間的負荷を背負いながら現場を回さなければならなくなりました。
「練習だけでなく息抜きも積極的に楽しみながらメリハリをつけて三日間過ごそう」というのは常々私の口から参加者に伝えていることなので、変更後のリスクは運営サイドのほうでなんとか辻褄を合わせてきたのですが、それでもなお「二日目の練習時間がもっと欲しい!」とか「楽しい!もっと演りたい!三日間じゃ足りない!」といった声は毎回必ず聞こえてくるため、うどんの件に関しては実はここ数年ずっと運営サイドの課題としてありました。
そしてようやく昨年、長期試行錯誤を経て「そもそもこの合宿が“楽器挫折者救済合宿”である以上、うどんは断腸の思いで切り捨てるべき」という判断を下したのです。
…音楽合宿のウェブサイトで新年早々うどんの話も何ですし、一旦話題を変えましょうね。
2003年の創始以来かれこれ十数年、延べ200回に迫る数の合宿を開催している我々も、まったくの未経験者がわずか三日間でバンド演奏を披露するという高いハードルに関しては決して運営サイドも熟れることはなく、仮にこの合宿が数千回、数万回と続いたとしても、基本的には無理なことに毎回挑んでいるのだと常に考えています。
創始当初から毎回、参加者の声と真摯に向き合うため、最終日の解散間際に簡単なアンケートにご協力頂いてますが、これらは現場スタッフだけでなく、陰で支えてくれているQuireeデスク、長年お世話になっている日本旅行さん、我が合宿のためにフレキシブルに対応してくれている宿泊施設の方々…など、この合宿運営に関わるすべての部署と共有し、厳しい目で毎回の開催を監督し続けるための資源となっています。
先ほどのうどんの件も実はこのアンケートから導かれた客観的な判断によるもので、こんなふうに我が合宿は少しずつマイナーチェンジを繰り返しながら運営行程をブラッシュアップしてきました。しかしながら全体の大きな流れに関しては非常に合理的な骨格として創始以前に練りに練られたものであり、それなりに目に見える成果を上げてきた根拠があるため、ブラッシュアップとは言ってもザックリとタイムテーブルを見た限りではそれほど大きな変化は感じられない程度に留めておりました。
そんな折、2003年の創始以来我々運営サイドでさえ不動と信じて疑わなかった大きなルーティンのひとつ、最終日の昼食時に行なわれてきた「打ち上げバーベキュー」が、昨年7月の開催回を最後にタイムテーブルから削除されております。また食べ物の話かと突っ込まれそうですが、実は運営サイドにとって、これは二日目のうどんの件とは比較にならないほど大きな決断でした。なぜなら参加者の皆さんにとって、最終日の発表会を終え、個々の課題や様々なプレッシャーから解き放たれたその大きな余韻として絶対に必要なイベントであると、運営サイドはそう固く信じてきたからです。
ちなみにこれもまたアンケートから導かれたマイナーチェンジであるように見えるかもしれませんが、実はこれまでのアンケートを通じ、バーベキューに対してネガティブな意見はほとんど届いたことがありません。ということは、本来ならば「無くすべきでない」と考えるのが妥当でしょう。
…今年の新年の原稿は若干ややこしいですが、最後までお付き合いくださいね。
昨年初旬、私は代表としてこの合宿を今後どうハンドリングしてゆくべきかというひとつの大きな岐路に立ちました。「0を1に」という信念のもと、「音楽が好きだ」という人の数を増やす様々な活動に対して各方面からの支援や協力のおかげで確実に追い風が吹いてきている一方で、たとえば河口湖で行なっている定期通常合宿に関する運営面に関しては立ち上げ当初から常に様々な向かい風と戦い続けているような状況で、しかも年々その風はじわじわと運営事情に重くのしかかってきており、いよいよそれが極限の波打ち際までやってきたんだな…という実感があります。ゆえに、そのバランスを主宰者として的確に見極め、「長年続けたこの合宿そのものを思い切って終了し、より大多数へ効率よくアプローチするたぐいの活動に完全シフトすべきなのでは…」と考えたりもしたのです。
十数年も経つと世の中は激しく変わるものですね。マイナンバー制度導入、安全保障関連法の成立、リーマンショック、東北大震災、アメリカ&キューバ国交回復、中国の一人っ子政策廃止、エボラ出血熱のブレイクアウト、消費税8%スタート、ロシアのクリミア編入、東京スカイツリー開業、サッカーなでしこジャパン世界一、民主党政権誕生、テレビ放送が地デジに移行、チリ鉱山落盤事故での奇跡の救出劇、裁判員制度スタート、日本代表チームがWBCを制覇、年金記録漏れ五千万件判明、民営郵政スタート、冥王星を太陽系惑星から除外、相次ぐ食品偽装、JR福知山線脱線事故、韓流ブーム、20年ぶりの紙幣刷新、米国産牛肉の輸入禁止で牛丼販売中止、各地で温泉偽装が次々と発覚、イラク戦争勃発、TPP、PPAP…。これらはすべて我が合宿スタート以降に起きた出来事であります。物価も上昇し、我が合宿運営においてもあらゆるコストが徐々に圧迫してくるようになりましたが、中でも際立ったのは2013年、富士山がユネスコ世界文化遺産に正式登録されたのをきっかけに、とくに現地のあらゆる相場が一気に上がりました。我が合宿で利用している日帰り温泉の価格だけを見ても2003年当初と比べて150~200%ほどになっている訳ですから、合宿運営にかかるコストの負担がどれだけ大きくなっているかは何となく想像できるのではないでしょうか。
しかしながらご存知のように楽器挫折者救済合宿は2003年の創始以来、2014年に施行された消費税増税の際の税込み価格改正を除き、参加料金(税抜)は1円たりともアップしておりません。不動の参加料金設定の向こうではもちろん関係各所からの料金改正交渉のたぐいがたびたび行なわれているのですが、昨年春の交渉の際には非常に厳しい条件が突きつけられ、もともと利益の出る仕組みで回されているイベントではない我が合宿にとってそれは些細な問題ではなかった訳です。
私個人、ボランティアでトントンならギリギリセーフとしたい覚悟で各部署との交渉に当たっておりますが、今回の交渉条件で電卓を叩いたところ、トータルで毎開催ごとに最低でも2万円弱の赤字が出ることが判明し、いよいよ値上げは避けられないだろうという現実が見えてきました。もちろん備品機材が壊れれば必要なので修理か買い替えなければならないし、参加者のキャンセルが出て15名に満たない回が発生したらその分は実損として弊社をはじめ各所が痛みを分け合わなければならないし、毎回2万円弱の赤字という試算であろうとも実際はそんな程度で済む訳はないのです。
さて、ここで一応きちんと示しておきたいのですが、これはお金の事情で存続すべきか否か…とかいうショボい話ではありません。問題の軸は「値上げに踏み切ることがQ-saiの信念(つまり「0を1に」の考え)に反している」という点にあります。より多くの演奏未経験者に参加して欲しいのに値上げに踏み切らねばならないというのは主宰者にとって極めて不本意なことです。ただ、先に述べた世の中の事情を踏まえて存続の道を選ぶのだとしたら当然、たとえどんな企業であろうとも値上げに踏み切る以外ないでしょう。「最高益でも赤字」という無茶な交渉内容を目前に、不本意でも値上げして存続させるべきか、あるいは値上げによって参加へのハードルを上げてしまうのならば思い切って存続の道を断つか…の岐路に立たされた、というのが的確な表現かもしれません。
しかしながら我が楽器挫折者救済合宿のウェブサイトをご覧の通り、今日(2017年1月1日)現在、参加料金(税抜)は2003年の創始時とまったく同じ数字のままであります。これが何を意味するのか、それぞれにお察し頂ければ幸いです。また、弊社の努力だけでなく、関係各所にも深くご理解を頂くなど、あらゆる手段を投じての結果です。やり繰りの事情をここまで公の場でぶっちゃけてよいものかどうかはわかりませんが、ザックリいうと以下の通り。
■バーベキュー廃止により、バーベキューにかかるアディショナルコスト分を丸々カット
■利用宿泊施設の繁忙期を避け、できる限り閑散期を利用することによって施設利用費のコストダウンを実現
■運営スタッフの人件費をそれぞれ少しずつカット
■年2回のDM郵送を1回にまとめるなどその他あらゆる手段で年間にかかるトータルコストダウンを目指す
■TシャツやLINEスタンプなどのオリジナルグッズの売り上げで合宿運営に関するコストを補填(売れれば…ですが)
…以上が主な具体策ですが、とくに利用宿泊施設との料金改正交渉に当たった際、Q-saiの信念をしっかりと受け止めて頂いたことで現状維持に至った事実は皆さんにきちんとお伝えしておきたい部分のひとつであります。
しかしながらトータルでは既に価格設定の限界を超えているため、近い将来、更なる改定交渉に見舞われた際には、ひょっとしたら参加者の皆さんに正当な負担をご協力いただくか、あるいはこれが未経験者にとって敷居をあげてしまう結果を招くのならいっそのこと断腸の思いで合宿活動そのものに終止符を打つか、の岐路に立たされることになるかと思います。
株主総会ならともかく、ここまでぶっちゃけて運営上の諸事情を公にお知らせするのは世間一般的には異常なことなのかもしれません。しかし、これは我が楽器挫折者救済合宿がひとつひとつ経てきた変化とその経緯について正しく認識して欲しいという意志であり、楽器挫折者救済合宿という組織の目指すゴールがいわゆる利益ではなく「0を1に」という信念に基づいたジャッジの先に在るという事実を示すものであります。
楽器挫折者救済合宿がこの先どのようなことになるのかはわかりませんが、Q-saiは“合宿”というスタイルに限らず、世界中を“music lovers”でいっぱいにするため、あらゆる手段で引き続き攻めて参ります。「是非参加してみたいけど、どうせこの先もずっと定期開催してるんだろうし、いずれ気が向いた時でいいや」なんて呑気にやり過ごしている楽器未経験者の皆さん、くれぐれも…いえ、これに限らず、何ごとも後回しにしないほうが良いのではないかなと、私は常々そう思っています。このわずか十数年の出来事然り、常に世の中はこんなにも予期せぬ方向へ大きく変化し続けてゆくのだから。
…という訳で各部署のご協力により参加者の敷居は据え置き、最終日の打ち上げランチはバーベキューではなく立食スタイルの軽食に変更となりました。立食スタイルを維持することによって発表会の達成感や余韻を味わう開放的な雰囲気はきちんと確保できています。加えて、これにより発表会のスタート時間が以前よりも30分以上うしろに設定できるようになり、最終日午前中のバンド演奏単位の練習時間に少しずつゆとりが生まれました。おかげで「二日目の練習時間がもっと欲しい!」とか「楽しい!もっと演りたい!三日間じゃ足りない!」といった参加者の声にも応える方向で着地できたので、結果オーライです。
うどんも、宿のご親族がお店を経営されている事情で、合宿所での食事メニューの中に何とか組み込んでもらえないものかと、実は既にそのような交渉もひと通り済ませております。つまり、地元名物・吉田うどんを味わう機会が断たれた訳ではありません。とはいえ皆さんが参加される回に吉田うどんが無事届けられるのかどうかはお店や民宿の状況によるものなので、もしも出なかったらその回はゴメンナサイ。大抵は出てくると思います。
あ、それからもうひとつ、大事な件がありました。皆さんが参加される回に名物・富士山が無事現れるのかどうかもまた雲や霧などの状況によるものなので、もし出なかったらゴメンナサイ。大抵は出てくると思います。笑
2017年 1月 1日 きりばやしひろき