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きりばやしひろき
http://dashman.org/
主要な催しがほぼほぼ中止となった昨年、個人的には企業や自治体と連携し「withコロナ時代にどうビギナーを守るか」といった課題に着手し、現在いくつかの試みが並走中、2021年は従来とは違った形の楽器挫折者救済活動が、水戸黄門でいうところの風車の弥七のように、鬼滅の刃でいうところの冨岡義勇のように、半沢直樹でいうところの渡真利忍のように、スターウォーズでいうところのR2D2のように、人知れずさりげなく、悠揚自在で安全なオンラインで実施される運びとなりそうです。
新しい技術や発想など欠けたピースもまだまだ多いのですが、コロナ禍というピンチがむしろ距離的・時間的制限を越えて多くのビギナーを救い得るその可能性を示したことは間違いなく、withコロナ時代の音楽文化は決して暗くはないぞといった感触です。
そんな一連の関わりの中で、指導する立場にあるミュージシャンとのやり取りも少なくないのですが、「本人のために“やめたほうがいいよ”と言って差し上げなければいけないビギナーも大勢いる」と言い切る指導者が、実は相当数います。
残酷ですが、それも一理あるのです。
商業音楽の現場に耐え得る演奏レベルの話をするのならば当然、先天的後天的向き不向きや血の滲む努力云々で篩にかけられ脱落するビギナーも相当数出ることでしょうし、本人の将来のために“やめたほうがいいよ”と言って差し上げなければいけないプレーヤーも大勢います。
しかし、一般社会人がそれぞれの人生を豊かにするために必要充分な演奏技術あるいはそれ以上を手に入れたいという話であれば、すべてのビギナーに挫折の余地はないと断言しますし、テニスやらゴルフやら登山やら釣りやらお茶やら手芸やら料理やらヨガやら寺巡りやらその他あらゆるたぐいの趣味と同様に「楽器が弾きたい」と夢見る誰もが自分のために楽器演奏を楽しむべきであり、そのためにQ-saiは創始以来変わることなく悩めるビギナーに寄り添う覚悟でおりますので諸々ご心配なく。
何をどう頑張ってもうまくいかない時、ギブアップという選択が一番楽なので、結果、楽器は過半数のビギナーが挫折してしまう訳ですが、もしもそこに寄り添い続ける誰かがいたら、挫折率が最も高いとされる初期段階(数曲が何となく弾けるようになるまでの第一次成長期間)でさえ、案外みんな挫けずに突破できてしまいます。
コロナ禍で社会が孤立傾向にある中、とくに昨年4月の緊急事態宣言発令以降、巣ごもり需要で初心者向けギターが過去に例のない勢いで売れまくっている以上、楽器挫折者救済合宿の当面の課題は、やはりこの巣ごもり需要で生まれた無数のギター挫折者予備軍を何とかすることなので、他パートの方々、しばらくはギター寄りの情報になってしまう事情を一旦ご理解願います。
まず、昨年末に「Fコードティーチャー」という助け舟を世に送り出したので、バレーコードの壁が越えられない人あるいは押さえられても百発百中でキレイな音が出ない人は、しばらくの間これを握りながら生活して下さい。
あるいはバレーコード以前に基本コードの運指レベルで躓いている人は、Qactus(カクタス)の「1upStage」というプロセスを正しく踏めば必ず乗り越えられるので、「自分にギターは向いてない」みたいな弱い心がチラついたら我慢せず今すぐQactusに依存して下さい。
合宿開催のないコロナ禍に於いて上記二件は最後の砦と考えて差し支えないので、ギターに挫折して辞めてしまうぐらいならとにかくこれらに頼りながら、初期段階を1日でも早く乗り越えてしまいましょう。
一方、過去に我々の合宿へ一度でも参加したことのある方限定ではありますが「宇野振道場」もオンライン枠の追加募集が始まったので、とくにこれまで参加できなかった遠方にお住まいの皆さん、年始の挨拶がてら気軽に宇野へコンタクトを取ってみて下さい。
また、昨年秋にスタートした一日一話ずつ配信中のYouTube短編動画「挫折わらしのからみ酒」も、これまでは合宿の思い出話に寄り気味でしたが、コロナ禍で激増した巣ごもりチルドレンの救済策や、音楽へのモチベーションの援護射撃になり得る話に少しずつ寄せてゆくので、挫折の淵にいる人はとりあえず難しいこと抜きで、この動画視聴をぜひ日課にしてみて下さい。
毎回1~2分程度の尺とはいえ、ユーチューバーでもない我々Q-sai運営陣が動画を毎日アップし続けるというのは実際かなり大変なことなのですが、少なくとも合宿開催自粛期間中は、サザエさんでいうところのタマのように、キングダムでいうところの河了貂のように、ビーバップハイスクールでいうところのノブオのように、水戸黄門でいうところの由美かおるのように、動画を通じて「寄り添ってる感」だけは醸し出してゆけるよう、できる限り続けて参ります。
「寄り添う」の話で、昨年2月に訪れていたマニラ市内のスラムのことを思い出しました。
フィリピンの極貧層が暮らすこの過密集住地区は、衛生環境が劣悪な上に年中無休の高温多湿、脆い電線網のせいでたびたび起こる複数棟の火災、雨季には洪水による悪臭や感染症…と、文字通り過酷な場所なのですが、ここで暮らす人々は寄り添いながら苦難を明るく乗り越え、心を枯らさずに生きています。
昨年末、未だ出口の見えない長期ロックダウン下(本稿執筆時は地域ごとの検疫制限下)のあのスラムがふと気になり、現地で仲良くなった住民に「コロナ禍等々諸々大丈夫?皆は元気?」と連絡をしたところ「クリスマスのことを考えてワクワクしていたので悲しむことをすっかり忘れていた」とのこと。
一見すれば悲しいことだらけのスラムの日常、彼らはいつも自然に、こんなノリで豊かな心を絶やさずに暮らしています。
先進国で生まれ育った我々には「貧しい国の貧しい人々 = 我々よりも豊かでない人々」という偏見がありますが、私にはむしろ豊かな国の豊かな人々のほうが貧しいぞと感じることが多いですし、一部の国々のスラムでは人間社会の理想郷のような状況を目撃することさえあります。
もちろん外部から来る人々にとっては危険な場所であることは事実なので変な影響を受けないで欲しいのですが、どの国に限らず、経済システムの破綻したコミュニティにはどういう訳か、他者の価値を認め合い、高め合おうとする空気をいつも感じます。
利害関係がゼロにまで振り切れると、騙し騙されといったつまらない念が無くなってしまうのでしょうか…騙し取りたくても騙し取るものがお互いに無い訳ですから。
ある意味ではバンドアンサンブルも同様、たとえどんなに未熟なプレーヤーが集まっても、互いの価値を認め合い、高め合おうとする空気に満ちている…だから我々は音楽が好きなのかもしれません。
感染者数増加にブレーキがかからぬ現状を見るに、本年の合宿開催も引き続きお預けとなりそうですが、一方でコロナ禍での試行錯誤を経て「寄り添うこと」と「オンライン」は意外と相性が良いこともだいぶ見えましたし、成田から飛べば最低20時間ぐらいはかかるアフリカ・サバンナさえもオンラインのおかげで徒歩0分圏内にあるような気さえしてしまう昨今、このオンラインという得体の知れない猛獣をどこまでリアルなコミュニケーションツールとして手懐けるかが今年一年の勝負どころだと考えております。
距離的・時間的制限を越えても尚、互いの価値を認め合い高め合うことができるのかを、今まさに人類が試されているのだと思いますが、いずれにせよこれまでとは違った形のバンドアンサンブルが、これまでとは違った次元で世界中に発生し始める日はそう遠くない…とだけ申し上げておきますので、その日を楽しみにコツコツと練習しておいて下さいね。
たとえ2021年がどんな年であろうとも、ワクワクを絶やさず、良い年にしましょう。
2021年 1月 1日 きりばやしひろき